LGBTの方が同性のパートナーと暮らしている場合、法律婚や事実婚と同じような法律の保護を受けることができません。2015年に東京都渋谷区で同性パートナーシップ制度が導入されたことをきっかけにして、少しずつ環境が改善されつつありますが、遺産の相続については十分とはいえないのが現状です。
そこで、この記事では同性パートナーに遺産を相続させたい場合に知っておきたい法律や保険の知識について解説します。なお、制度の現状についてはすべて2018年4月現在の情報に基づいていることをあらかじめご了承ください。
1.同性パートナーの場合、遺産の相続は法律婚や事実婚と比べて不利
同性のパートナーに対して遺産を相続したいと考える場合、何もしないでいると法律婚や事実婚と同じような恩恵は受けられません。そのため、何らかの対策を立てる必要があります。
対策の方法としては主に遺言を書くこと、贈与を活用すること、そして保険を活用することの3つがあります。そこで、何もしないでいるとどうなるかを解説した上で、それぞれの対策をどのように活用すれば、同性パートナーにできるだけ自分の希望通りに遺産をのこすことができるかという点を解説します。
2.何もしないとどうなるか
何の対策もしないで相続が発生した場合は、法定相続人が財産を引き継ぎます。法定相続人は親族で、財産を引き継ぐ順番には決まりがあります。配偶者は常に相続人で、その次は優先順位の高いほうから子、直系尊属(父母、祖父母)、兄弟姉妹が該当します。
そして、財産は配偶者と、優先順位の高い法定相続人1組が引き継ぎます。配偶者がいない場合は、優先順位が1番高い法定相続人が全て引き継ぎます。たとえば配偶者と子、父母がいる場合は配偶者と子が法定相続人で、配偶者がおらず、子と父母だけの場合は子がすべての財産を相続します。
同性パートナーは法定相続人になることができませんので、何もしなければすべての財産が親族で相続されてしまいます。そのため同性パートナーに財産を渡したいと考える場合は、しっかりと生前に対策を立てる必要があります。
3.遺言を活用した対策
同性パートナーに財産を引き継ぐために最も効果的な方法は、遺言を書くことです。遺言を書いて財産の受取人を同性パートナーに指定すれば良いわけです。
ただし、配偶者と子、そして直系尊属には「遺留分」という最低限の取り分があります。そのため、現在の法律ではこれらの法定相続人がいない場合を除き、全財産を同性パートナーに渡すことは難しいです。なお、兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分はどのような法定相続人がいるかによって違いますが、全財産の3分の1~2分の1だと考えておけば良いです。つまり、故人の意思で自由に処分ができるのは、最大で3分の2ということです。
遺言の作成方法には自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。以下でそれぞれの違いを簡単に説明します。
自筆証書遺言とは、自分で遺言の全文を作成し、自分で保管しておく方法です。一番簡単にできるのがこの方法ですが、遺言は決められた書式があります。正しく作成されていないと遺言の効力が無効になってしまう可能性があるというデメリットがあります。
秘密証書遺言とは、自分で遺言の全文を作成し、封筒に入れて封印した上で、公証役場で保管してもらう方法です。公証役場で保管してもらうので、確実性は自筆証書遺言よりも高いですが、中身のチェックを受けませんので、自筆証書遺言と同じデメリットがあります。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人の立会いのもとで作成する遺言の形式です。検察官や裁判官を経験したベテランの法律家と一緒に内容を考えて作成するため、いざ相続が発生した時に、内容の不備で問題になることがありません。
また、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、紛失のリスクもありません。費用はかかりますが、確実に同性パートナーに財産を残したいのであれば、この方法がもっともおすすめです。
なお、財産の分割方法を決める話し合いの場を遺産分割協議と言います。遺言書に、同性パートナーに全財産を譲ると書かれている場合でも、法定相続人がいれば普通はその通りにはなりません。しかし、遺産分割協議でその通りにしても良いと全員が同意すればその通りになります。ただ、このようなケースは例外と考えておいた方が良いでしょう。
4.贈与を活用した対策
同性パートナーに財産を譲りたいのであれば、生前のうちからできる贈与も活用しましょう。贈与は贈与する人と受ける人の意思のみで成立しますので、親族の意向は関係ないからです。年間で110万円までの贈与は課税されませんし、確定申告の必要もありません。しかし、まとまった金額の贈与を行いたい場合は注意が必要です。
たとえば同性パートナーに1000万円の贈与をしたい場合、100万円ずつ10年間にわたって贈与をすれば、贈与税の課税を避けられると考えるかもしれません。こうした贈与の仕方を連年贈与と言いますが、初めから100万円ずつ、総額で1000万円を定期的に贈与しますという約束のもとに贈与をしている場合は、定期的に100万円を10年間にわたって受ける権利が課税対象とされ、初年度に1000万円にかかる贈与税を支払う必要が生じます。
毎年、贈与の度に贈与計画書を作成することで連年贈与ではないとすることもできなくはないですが、贈与契約書を作成することには別の意味もあります。贈与契約書を作成しておきませんと、相続があった時に、その贈与されたお金が相続財産ではないかと法定相続人から主張されてしまう可能性があるからです。こうしたことを避けるためにも贈与の都度、贈与契約書を作成するのが良いでしょう。
5.生命保険を活用した対策
以前は、生命保険の受取人は配偶者もしくは二親等以内の血族でないとなれないとされていました。しかし、同性パートナーシップに対する理解が進み、現在は同性パートナーであっても一定の条件を満たしていれば、保険金の受取人にすることができる保険会社が増えています。
そのため、貯蓄型の終身保険を利用すれば、遺言や贈与とは無関係に財産を残すことができます。ただし、同性パートナーに保険を通じて財産を残す場合、法定相続人に対して残す場合と比べるとやや税金が高いというデメリットはあります。
法定相続人が保険金という形で財産を受け取る場合、500万円×法定相続人の数で計算した金額は非課税です。しかし、同性パートナーは法定相続人ではないため、このメリットを享受することはできません。
なお、掛け捨ての死亡保険でも、同性パートナーを保険金の受取人にすることができます。遺産をのこすという趣旨とはやや異なりますが、想定よりも若いうちに死亡してしまった場合にパートナーが生活に困る可能性があるのであれば、そのパートナーを受取人にした掛け捨ての死亡保険に加入するのも1つの方法です。
同性パートナーは遺族年金を受け取ることができませんので、収入の少ないパートナーがいる場合はこの方法も検討するのが良いでしょう。
6.同性パートナーに遺産をのこしたいなら、しっかりと対策を
何もしないでいると同性パートナーに対して財産を十分に残すことは難しいです。親族が同性パートナーに対して理解が深く、異性のパートナーと同じように見てくれるのであれば問題ありませんが、そうでないのであれば対策をしっかり考えておくことが必要です。
事実婚と比べると環境の整備は十分ではありませんが、既存の法律を活用することによってできることは数多くあります。そのため、やり方次第ではある程度、希望に近い形を実現することができるでしょう。
ただ、こうした対策を適切に行うためには高度な専門的知識が必要です。LGBTについて理解のあるプロに依頼して、相談に乗ってもらうのがおすすめです。