LGBTの方が同性パートナーと共同生活をする場合、何もしなければ、法律婚や事実婚と比べて不利になる点が多いです。しかし、既存の法律を上手に活用することで、ある程度は不利な点を補うことができます。この記事では、同性のパートナーと共同生活をするうえで、あらかじめ知っておきたい制度や法律の知識について解説します。
1.自治体による同性パートナーシップ制度のメリット
LGBTの方であれば、同性パートナーシップ制度の動向には大きな関心を寄せているでしょう。現状を整理しますと、2018年4月現在において、同性パートナーシップ制度を導入している自治体は東京都渋谷区、世田谷区、那覇市、札幌市、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市の6つです。また、大阪市や福岡市では導入が検討されており、少しずつ環境の整備が進められています。
この制度は自治体によって違いがあり、「条例」として定められている場合と「要綱」として定められている場合の2種類があります。渋谷区は条例ですが、他の自治体はすべて要綱です。条例は議会で定められるものですが、要綱は単に首長の権限で策定される事務マニュアルにすぎません。
いずれにしても法律上の効力や、何らかの義務が生じる性質のものでない点は共通していますが、それでもメリットはいろいろとあります。
同性パートナーシップ制度をもっとも早く導入した渋谷区では、区内の事業者に対して最大限の配慮をすることを定めています。違反した事業者に対しては是正勧告をすることができ、勧告に従わない場合は関係者名等を公表することができると条例で定めています。
これにより、例えばパートナーが病気やケガで手術を必要とするときに、同意書のサインを断られることが減ったり、家族向け区営住宅への入居ができたりするなどのメリットが生まれました。また、携帯電話の事業者であるKDDI、NTTドコモ、ソフトバンクの3社は、パートナーシップ証明書の提示を条件に、携帯電話の家族向け割引を適用しています。
このほか一部の保険会社では、同性パートナーを保険金の受取人にすることができるようになりました。例えばライフネット生命や日本生命では、同性パートナーシップ制度のある自治体に住んでいなくても、各社が定めた手続きをすれば、同性パートナーを受取人にできます。日本生命の場合は同性パートナーシップ証明書があると、より簡単な手続きでパートナーを保険金の受取人にすることが可能です。
同性パートナーシップ制度のメリットはこうした手続き上の話だけではなく、何より制度ができたことで性的マイノリティの認知度や社会的地位が高まりますし、それによって得られる心理的な効果が大きいと言えるでしょう。
2.同性パートナーシップ制度がない地域に住む場合は?
同性パートナーシップ制度を導入している自治体に住むことが難しい場合であっても、パートナーと「合意契約書」を作ることで、さまざまな法律上のメリットを受けられるようになります。
同性のパートナーと共同生活をしている場合は、法律婚や事実婚なら生じないような問題が起きます。問題が起きるのは、主に入院したとき、判断能力が低下したとき、そして死亡したときの3つです。
例えば入院したときは、戸籍上の家族でないことを理由として手術同意書へのサインを断られることがあるのです。また、判断力が低下したときは、長年連れ添ったパートナーであっても、家庭裁判所から後見人として選任されないかもしれません。そして、死亡時は相続という大きな問題があります。このような場合に備え、あらかじめパートナーと合意契約書を作っておくことで対応することができるのです。
合意契約書は私文書としても作れますが、公正証書として作成するのがおすすめです。
公正証書とは、当事者の合意に強力な法的効力を持たせる書面で、裁判官や検察官等を経験した法律の専門家による立会いのもとで作成されます。公正証書で合意契約書を作っておけば、2人の意思が本物であることを、他人に簡単に伝えることができます。
公正証書として合意契約書を作っておけば、入院したときに同性パートナーに対して医師の話を聞く権限を与えたり、任意後見人に指定したりすることが可能です。第三者に対して強い効力を持ちますので、いざというときに備えて作成しておくのが良いでしょう。自治体が設けている同性パートナーシップ制度はその法的効力が弱いので、導入している自治体に住んでいても、それとは別に合意契約書を作ることで、その不足を補うことができます。
3.任意後見とは
認知症などが原因で判断能力が落ちたときは、自身の財産管理などを他人に補助してもらう必要が生じます。この補助する人を決める仕組みを成年後見制度といい、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
法定後見は、本人の判断能力が不十分になってから後見人の選定が始まります。判断能力が不十分といってもその程度には差がありますが、日常生活で買い物すらできないような状態になってしまうと、後見人を自らの意思で選ぶことは難しくなります。そのようなときは、後見開始の申し立てをするのは配偶者か親族になるでしょう。そして、後見人は家庭裁判所が選任しますので、同性パートナーだと選ばれない可能性があります。あらかじめ任意後見契約をしておけば任意後見人が優先になりますので、いざというときに同性パートナーをスムーズに後見人とすることができるのです。
4.遺言書を作れば、パートナーに財産を残せる
自身の死後、財産を同性パートナーに残したいのであれば、相続対策をしておくことが必要です。財産や負債を引き継ぐ人を相続人といいますが、遺言書がない場合は親族が法律で相続人になることが定められているからです。法律の定めにしたがって故人の財産を引き継ぐ人を法定相続人といいます。
法定相続人は優先順位が決められており、配偶者は常に相続人となります。その次に子、直系尊属(父母、祖父母)、兄弟姉妹という順番になっています。仮に、同性パートナーが異性のパートナーと子をもうけたうえで離婚していると、優先順位の高い相続人がいることになりますので注意が必要です。同性パートナーは法定相続人に含まれませんので、何もしないでいると故人の財産を相続できません。そのため、遺言を作成しておくことが必要なのです。
ただし、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。遺留分とは遺言の内容にかかわらず、法定相続人が必ず受け取れる財産のことをいいます。そのため、例え遺言で「同性パートナーにすべての財産を譲る」と書いてもその通りにはできません。遺留分は、例えば法定相続人が配偶者のみであれば全財産の2分の1、配偶者と子どもであれば配偶者が4分の1、子供が4分の1(2人いれば8分の1ずつ)、父母のみなら3分の1と具体的に決められています。それ以外であれば遺言で財産を渡す人を決められますので、その旨を遺言に書いておきましょう。
5.できるだけ専門家に相談しましょう
異性のパートナーと籍を入れずに法律婚同様の共同生活をする場合は事実婚と呼ばれ、法律婚との制度上の差はだいぶ少なくなっています。しかし、パートナーが同性の場合の環境づくりは、2018年4月時点ではまだ始まったばかりで、事実婚には及びません。そのため、既存の法律を駆使して自分たちの権利を確保する努力が大切です。制度が変わるのを待っていたらいつまでかかるのか分からないので、積極的に情報収集をして自ら動くのが良いと言えます。
こうした手続きは法律の専門知識が必要な難しい話ですので、プロの手を借りて行うほうがスムーズですし、間違いもありません。LGBTのことをよく理解し、快く相談にのってくれる専門家を見つけて相談してしまうのが、問題解決の近道です。