「遺産相続で争わないために」生前贈与や遺留分など相続税の手続きと対策

遺産相続で争わないために

相続とは故人の財産を相続人に移転することですが、金額が大きいのでトラブルが生じやすいという性質があります。そのため、事前にしっかりと対策を立てておくことが望ましいです。この記事では、相続が発生したときのために知っておきたい基本的な知識について解説します。

 

1.相続の基本的な流れ

人が死亡すると、その人の財産をどう処分するかという問題が生じます。これが相続です。

相続財産は金額が大きく、トラブルが生じやすいです。そのため、法律では相続財産の処理の仕方について詳しくルールを決めています。おおよその手順は次のとおりです。

・遺言書を探す

遺言とは、故人が自らの財産を処分する意向を生前に明らかにしたもので、これを記載した書面が遺言書です。

遺言書は自宅以外のところにも保管されていることがあります。自宅以外で一番、保管されている可能性が高いのが公証役場です。遺言書の作成方法は主に3つありますが、そのうち公正証書遺言または秘密証書遺言という方式を採用した場合、その保管先は公証役場になります。そのため、こちらに保管されていないかどうか確認しましょう。

遺言書を見つけた場合、勝手に開封してはいけません。遺言書を開封するためには、裁判所で検認と呼ばれる手続きが必要です。なぜ検認が必要なのかというと、遺言書は改ざんされる恐れがあるからです。

なお、遺言書は法律で定められた要件を満たしていないと無効になります。たとえば日付の記載がなかったり、直筆で書かれておらずパソコンで作成されたりしている場合です。要件を満たした形で記載しないと、希望通りに財産の処分が行われませんので注意しておきましょう。

・相続人の確定

故人の財産を相続する人を相続人といい、相続人は法定相続人と、故人が遺言で指定した法定相続人以外の人で構成されます。法定相続人は配偶者、子、直系尊属(父母、祖父母)、兄弟姉妹が該当します。そのため、遺言がなければ相続人は法定相続人のみです。

相続人を確定するためには、故人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本や除籍謄本などを入手して確認する必要があります。相続人の確定にあたっては、親族でも知らない人物がいることがあるので注意してください。たとえば、故人に離婚歴がある場合、離婚した相手との間に子をもうけていれば、その子も相続人になります。また養子縁組が行われているケースもあるので、十分に注意が必要です。

・相続財産の確定

相続の手続きを進めるためには、故人が生前にどんな財産を保有していたのかをすべて把握する必要があります。注意しなければならないのは、プラスの財産だけでなく負債(マイナスの財産)もあるということです。相続はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぎます。特にマイナスの財産は本人が周囲に隠しているケースもありますので、しっかりとした調査をしましょう。

・遺産分割協議

遺産の分割について話し合う場のことを遺産分割協議といいます。遺産分割協議は相続人全員の参加が必要です。遺産分割協議の結果をまとめたものを遺産分割協議書といいます 。遺産分割協議は必ず行わなければいけないものではありません。しかし、無用なトラブルを避けるためにも行なっておくことが望ましいです。 遺産分割協議を行ったからといって、遺産分割協議書を必ず作る必要はありませんが、財産の権利移転の手続きで役立つことがあるので、作成したほうが良いでしょう。

 

2.相続税はどうなる?

相続が発生すると、必ずしも相続税の納税が必要というわけではありません。相続税の納税が必要なのは、課税対象額が一定の金額を超えたときのみです。相続税の税額は、まず相続財産の課税価格を計算し、そこから基礎控除額を差し引いたものに対して税率を乗じて計算します。

基礎控除額は3000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算します。

たとえば、法定相続人が配偶者と子1人である場合は

3000万円+600万円×2=4200万円

となります。この場合、4200万円を超える相続財産がなければ、相続税の納税義務はありません。また、相続人に配偶者がいる場合は1億6000万円までの配偶者控除とよばれる規定が使えますので、よほど高額な財産がなければ相続税の納税義務はありません。

相続税の申告期限は、故人が亡くなったことを知った日から10カ月目の日までとされています。10カ月というと十分な時間があるように感じるかもしれませんが、相続の手続きは煩雑ですし、トラブルがあると話がまとまらず、思った以上に時間がかかることがあるので注意してください。

 

3.勝手に話が進められていたら「遺留分」の主張を

遺産分割協議は、公の場で開催しなければいけないというものではありません。そのため、親族とあまり連絡を取っていないなどの理由で、自分の知らないうちに遺産分割の話が進んでいるということもありえます。そうすると、故人の財産を全く相続できないということが起きてもおかしくありません。しかし、遺産分割協議は相続人全員の同意が必要ですし、法定相続人のうち配偶者、子、直系尊属は遺留分とよばれる最低限の取り分が認められています(兄弟姉妹には遺留分は認められていません)。

そのため、一部の相続人の意向で勝手に財産の配分を決めることはできません。このような場合には、遺留分減殺請求権という権利を行使することで、自分の遺留分を確保することができます。なお、遺留分減殺請求権には期限があります。遺留分の権利を持つ人が遺留分の侵害があったことを知ったときから1年以内です。これを過ぎてしまうと請求できません。

 

4.相続を放棄したほうが良いケースもある

故人の純資産がマイナスのときは、そのまま相続してしまうと相続人は負債を背負うことになります。このような場合は相続そのものを放棄したり(相続放棄)、相続する財産がマイナスにならない範囲で引き継いだり(限定承認)することも可能です。相続放棄や限定承認の期限は、相続の開始があったことを知ってから3カ月以内と定められています。相続税の申告期限と比べてかなり短いので、間違いないようにしましょう。なお、いったん相続放棄または限定承認をしたら、それを取り消すことはできないので注意してください。

 

5.生前贈与で自分の希望に近づける

法定相続人以外の人に財産を残したいと考える場合、生前贈与を行うことが有効です。贈与は誰に対しても行うことができるので、生前において計画的に贈与を行えば、法定相続人以外の人に財産を残したい場合、より希望に近づけることが可能です。

贈与は年間で110万円までであれば、贈与税はかかりません。ただし、まとまった金額を贈与する場合には注意が必要です。たとえば1000万円の贈与をしたい場合、100万円ずつ10回にわたって贈与をすれば、贈与税はかからないと考えるかもしれません。しかし、初めから100万円ずつ10回にわたって贈与しますよという契約をした場合は、定期金を受け取る権利を贈与したと認定され、1000万円に対して贈与税がかかってしまいます。これを連年贈与と言います。

贈与税は贈与する金額が高いほど税率も高くなりますので、連年贈与とみなされないようにするために十分な注意を払う必要があります。なお、相続が開始される前の3年以内に行われた贈与によって取得したものは、相続で取得した財産とみなされてしまいます。注意してください。

親族を失った悲しみの中、相続でトラブルなんて起こしたくはありませんよね。

相続に関する制度や手順等を覚えておき、スムーズに終わらせることが大切だと考えます。