障害が原因で働く能力が低下したときに役立つ障害年金や雇用対策、保険の知識

障害が原因で働く能力が低下したとき

病気やケガが原因で障害が残り、働く能力が落ちた結果、それまでと同じ仕事を続けることができなくなる場合があります。こうしたときは国の制度を使うことによって、その経済的な損失をある程度カバーすることができるのです。この記事では、障害が原因で働く能力が低下したときのために知っておきたい知識について解説します。

 

1.障害年金とは

国の年金制度には老齢年金遺族年金そして障害年金の3つがあります。障害年金は所定の障害状態に該当した人が受け取ることのできる年金です。

障害年金は、障害基礎年金障害厚生年金の2種類があります。大まかにいえば、自営業者や専業主婦であれば障害基礎年金のみ、会社員や公務員であれば障害基礎年金と障害厚生年金(公務員の人は障害共済年金)を受給することができます。

それぞれの年金は受給するための要件が決められています。障害基礎年金で障害等級1級と認定されるためには、次のいずれかの要件に該当することが必要です。

  • 両上肢の機能に著しい障害を有するもの
  • 両下肢の機能に著しい障害を有するもの
  • 両眼の視力の和が0.04以下のもの(原則として矯正視力)
  • 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
  • その他

上肢とは、肩の関節から指先のことです。下肢とは脚を指します。 障害年金はこのように、ある程度重い障害状態に該当する人が受給することのできる年金です。

障害基礎年金には1級と2級があり、1級なら年間で779,300円×1.25+子の加算、2級なら779,300円+子の加算として計算した金額を受給することができます。子の加算とは、子供の人数に応じて加算される金額、で第1子と第2子は22万4300円、第3子以降は7万4800円とされています(2018年4月現在)。障害厚生年金は1級から3級まであり、金額は次の計算式によって求めます。

  • 1級 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(22万4300円)
  • 2級 報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(同上)
  • 3級 報酬比例の年金額 (最低保障額 58万4500円)

報酬比例の年金額について簡単に説明をすると、

「平均標準報酬額×1000分の5.481×被保険者期間の月数」

で計算した金額です(被保険者期間が平成15年4月以降のみの場合、本来水準、平成28年4月1日現在)。また、平均標準報酬額とは賞与を含めた平均月収のことをいいます。計算式の中に被保険者期間の月数がありますので、期間が長いほど金額も大きくなるということです。配偶者の加給年金額は、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる時のみ加算されます。詳しく知りたい人は、日本年金機構のウェブサイトで確認してください。

なお、障害年金の申請は手続きが煩雑で、一般の人が自分で行おうとすると年金事務所や医療機関等に何度も出向き書類を揃える必要があります。ご自分で申請を行いことは可能ですが、障害年金の申請を得意とする社会保険労務士や弁護士の手を借りて行うほうががおすすめです。

 

2.障害者に対する国の雇用対策

障害者雇用促進法では、障害を持つ人が働く上で不利にならないようさまざまな雇用対策を設けています。なお、この法律における障害者の定義は「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」です。

たとえば、従業員を一定の人数以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならないと定めています。採用面においても障害者と障害者でない人を均等に扱わなければいけませんし、研修や福利厚生などの待遇についても同様です。また、事業主は障害者の雇用状況を毎年1回、ハローワークに報告する義務がありますし、障害者を解雇しようとするときはその旨を届け出る必要があります。また、障害が原因で働く能力が大きく低下した場合の相談窓口は数多くあります。自治体やハローワークをはじめとして、障害者就業生活支援センター、地域障害者職業センターなどがあり、これに加えて公共の職業能力開発施設もありますので、必要な技術を身につけて再就職することもできます。

平成28年度版の障害者白書によれば、障害者の数は身体障害者、知的障害者、精神障害者を合わせて約860万人います。そのため、障害者の雇用対策は整備されていますので、障害によって働く能力が損なわれた場合は、速やかにしかるべき窓口で相談するのが良いでしょう。

 

3.働けなくなった時に備える民間の保険

病気やケガが原因で、一時的に働くことができなくなった時のために加入できる民間の保険があります。これを「所得補償保険」または「就業不能保険」といいます。この保険は、保険会社があらかじめ定めた「働くことのできない状態」に該当した場合、働いていれば得られたであろう収入を補償する趣旨の保険です。働くことができなくて減ってしまう収入を代わりに保険会社が払ってくれるイメージです。 そのため、加入するときは月5万円、あるいは月10万円のように、生活に最低限必要と考える給与の額を想定して決定します。

働くことができない状態とは、 例えばライフネット生命の就業不能保険では「病気やケガの治療を目的として、日本国内の病院または診療所において入院している状態」または「病気やケガにより、医師の指示を受けて自宅等で在宅療養をしている状態」のいずれかに該当することと定義しています。これは、障害年金や死亡保険の高度障害保険金を受け取るときのような厳しい基準ではないことに注意してください。たとえば入院して治療を受けているときも働けない状態ですので、この条件に該当することになります。

ただし、所得補償保険や就業不能保険では、働くことのできない状態に該当してから一定の期間(60日から半年程度が一般的)が経過しないと受け取れませんので、加入する際は注意が必要です。なお、所得補償保険と似た名前の保険に「収入保障保険」という保険があります。収入保障保険は死亡保険の一種ですので、混同しないように注意しましょう。

 

4.国の制度は知らないと使えない

障害年金や生命保険に限った話ではありませんが、制度は自ら申請しないと利用することができないものが大半です。そのため、以上で説明してきた話を細かく覚えておく必要はありませんが、こうした制度があるということは、頭の片隅に入れておきましょう。そして万が一、障害が原因で働くことが難しくなったときは1人で悩まず、自治体の窓口やこうした問題に詳しい専門家に相談して、最も良い解決法を一緒に考えるのが良いでしょう。